JLPT N1 の語彙:1万語の差をどう埋めるか

N1 は累計でおよそ1万語を要求する、とよく言われます。N2 に合格した時点で身についているのはおよそ6,000語ですから、残るのは4,000語の差です。この差は教材一冊では埋まりません。N1 が「教養ある大人が読むものなら何でも」出題するという評判を得ているのは、伊達ではないからです。この規模になると、単語帳だけではどこかで通用しなくなります。効くのは三つを組み合わせたやり方です — 頻度順に整理した中核リスト、長い裾を引き受ける読解中心の習得、そして数千枚のデッキになっても崩れないよう設計した復習の仕組み。本稿ではその三つをすべて扱います。

1. 数字で見る差

項目N2 合格N1 合格
累計語彙約6,000語約10,000語
累計漢字約1,000字約2,000字(≒ 常用漢字の範囲)
文章のカバー率*新聞記事の約90〜95%約98%以上
前のレベルからの標準的な準備期間6〜9か月10〜18か月

*カバー率とは、ある文章に出てくる語のうち、すでに知っているものの割合です。95%から98%への移動は小さく見えますが、実際には「辞書を引きながら読む」と「読む」を分ける差です。95%なら20語に1語、おおよそ一文に一つは知らない語が現れます。98%になれば、残りはたいてい文脈から推測できます。差を埋めるとは、まさにその最後の3%を手に入れることです。

2. リストの順番ではなく頻度から攻める

新しく覚える4,000語が、どれも同じ確率で現れるわけではありません。コーパスの頻度は、試験での価値と実生活での価値を同時にもっともよく予測してくれる指標です。そこで、次の三つの帯に分けて覚えていきます。

  1. 第1帯 — 高頻度の N1 中核(約1,500語)。社説や公文書ならほぼ必ず出てくる語です。措置(そち=手立て・処置)、懸念(けねん=気がかり)、促進(そくしん=物事を前へ進めること)、著しい(いちじるしい=目立って大きい)。この帯は体系立ったN1 単語リストで、一日の分量を決めて淡々と進めてください。
  2. 第2帯 — 中頻度(約1,500語)。政治・経済・科学コラムなど、分野の決まった文章によく出ます。リストは補助にとどめ、主に読解とマイニング(4節)で身につけます。
  3. 第3帯 — 長い裾(約1,000語)。文語的な動詞、擬音語・擬態語、一石二鳥(いっせきにちょう=一つの行いで二つの利益を得ること)のような四字熟語。この帯はリストから力任せに覚えないでください — 読んでいて実際に出会ったものを選んで残す、という順番のほうが合っています。

実務的な原則はこうです。第1帯はリストが先、第2〜3帯は入力が先。4,000語すべてをフラッシュカードだけで押し切ろうとする人は、たいてい4か月目あたりで復習の負債につぶされて止まります。

3. 漢語と和語

N1 の差の大半を占めるのは漢語(かんご)、つまり改まった文章で使う音読みの二字熟語です。日常で使う和語(わご)のほうは、すでに知っている語ばかりのはずです。N1 はこの対のうち、改まった側を問うのを好みます。

改まった漢語日常の和語の対意味
購入する(こうにゅうする)買う(かう)物を買い求める
帰宅する(きたくする)家に帰る(いえにかえる)家へ帰る
到着する(とうちゃくする)着く(つく)目的地に着く
遅延(ちえん)遅れ(おくれ)予定より遅れること
把握する(はあくする)つかむ・わかる内容を十分に理解する

この構造は、むしろ贈り物です。漢語は組み合わせが利くからです。削減(さくげん)と費用(ひよう)を知っていれば、費用削減 という語はただで手に入ります。漢字の読みを体系立てて覚えれば、実質的な語彙は文字どおり掛け算で増えていきます。新しい二字熟語に出会ったら、いつもこう問いかけてください — この字の音読みを、別の語ですでに見ていないか。見ていたなら、ノートの上で結び付けておきましょう。

4. 読解中心の習得 — NHK のマイニングとその先

第2帯からは、教材はニュースです。実際に回る一日の型(30〜40分)はこうなります。

  1. 一日に NHK のニュース記事を一本選ぶ。やさしい日本語版ではなく通常の NHK NEWS WEB です — その段階はもう過ぎています。政治・経済の記事が、N1 語彙の密度がもっとも高くなります。
  2. 一読目:止まらずに意味を追って読む。知らない語には印をつけるだけで、まだ調べません。
  3. 二読目:印をつけた語を調べる。ただし、下のマイニング基準を通ったものだけを残します。記事一本につき知らない語はふつう5〜10語出ますが、残すのは3〜5語です。
  4. 残した語は例文カードにする — NHK の文をそのまま使い、読みと意味を添えて — 復習デッキの回転に入れます。

マイニング基準:(ア)一週間のうちに二度出会った、(イ)すでに知っている漢字でできている、(ウ)その分野の働き者だと明らかである — このいずれかに当てはまれば残します。固有名詞と一度きりの専門用語は飛ばしてください。NHK でよく獲れる収穫はこんな語です。政権(せいけん=政治を行う立場・その組織)、見通し(みとおし=今後の予測)、相次ぐ(あいつぐ=次々に起こる)。値上げが相次いでいる(ねあげがあいついでいる) のように、NHK がほぼ毎週使う文型です。

これに、自分が楽しめる長めの読み物を一つ添えます — 小説、コラム、長いインタビューなど。N1 の読解には随筆や論説が入り、その文体はニュース記事よりむしろ文庫本のほうに近いからです。

5. 類義語の束 — N1 の本当のボス戦

N1 の語彙問題は「X の意味は何か」をほとんど聞きません。聞くのは「似た四語のうち、この文に合うのはどれか」です。ですから語を一つずつ切り離して覚えるのはやめて、使い分けのメモとともに束で覚えてください。

束(「すぐに」の仲間)ニュアンス
直ちに(ただちに)硬い書き言葉。公的な指示・アナウンスで使う直ちに避難してください。(防災放送の定型)
即座に(そくざに)考える間を置かない、その場での反応即座に答えた。(間を置かずに返答した)
早速(さっそく)前向きな気持ちを含む「さっそく(喜んで)」早速試してみます。(勧められてすぐに)
一刻も早く(いっこくもはやく)切迫した願い。「一刻の猶予もなく」一刻も早く会いたい。(強い願望)

勉強する日ごとに、すでに別々に出会った語から束を一つ作ってみてください(構成員を集めるには類語辞典が役に立ちます)。そして構成員ごとに、ほかの構成員を入れると据わりが悪くなる文を一つずつ書いてみましょう。その「据わりが悪い」という感覚こそ、試験が測ろうとしている力であり、同時に自分の日本語を大人びて響かせるものでもあります。

過去問で繰り返し出るぶん、早めに作っておく価値のある束もあります。「しだいに」の仲間 — 次第に(しだいに、硬い書き言葉)、徐々に(じょじょに、目に見えて着実な変化)、だんだん(話し言葉)。「すぐれる」の仲間 — 優れる(すぐれる)、秀でる(ひいでる)、抜群(ばつぐん)。「あいまい」の仲間 — 曖昧(あいまい)、漠然(ばくぜん)、不明瞭(ふめいりょう)。週に三つ四つの束を半年続ければ、語彙パートの第一問形式で出うるものはおおむね覆えます。

6. 規模を保つ — 1万語を生かしておく

N1 の語彙でいちばん難しいのは、覚えることではありません。6,001語目から10,000語目を足していくあいだ、1語目から6,000語目を忘れずにいることです。具体的な手はこうなります。

7. N1 の速度で過ごす一週間の例

語彙だけで週におよそ8時間という配分ですが、N1 では現実的な数字です。語彙が読む速さと聴解の理解の上限を、同時に静かに決めてしまうからです。N2 に合格してそのまま上がってきたところなら、まずN2 学習プランで土台を点検してください。韓国での就職を念頭に N1 と JPT 900点を天秤にかけているなら、JLPT と JPT の比較も参考になります。

今日は第1帯から始めましょう。JLPT モジュールを開いてN1 単語リストを Day 単位で一つずつ進め、残りの9,000語は復習デッキに一緒に背負ってもらえば十分です。