日本語の形容詞:い形容詞とな形容詞、二通りの活用のしかた

英語の形容詞は、それ自体が形を変えません。昨日が寒くても、今日は寒くなくても、先週寒くなかったとしても cold は cold のままで、時制と否定は動詞が引き受けます。日本語はその逆です。形容詞自身が時制と否定を背負い、しかもそのやり方が異なる二つの部類に分かれています。部類を取り違えると、学習者だと最も早く気づかれる誤りのひとつになります。×寒いでした が日本語話者の耳に残す違和感は、英語で「I goed」と言われたときのそれに近いからです。救いは、この仕組み全体が表二つと不規則な語ひとつで終わることです。このガイドでは、その二つの表、別の部類に紛れ込んでいる紛らわしい語、そして形容詞を会話で実際に役立てる型 — 副詞化、比較、なる・すぎる・そう — を整理します。

1. 二つの部類と、その区別が存在する理由

日本語の形容詞は二種類あります。伝統的にい形容詞(けいようし)、な形容詞(形容動詞とも)と呼ばれてきたものです。両者のちがいは意味ではなく文法にあります — 高い(たかい)も便利(べんり)も、ものの様子を述べるごく普通の語だからです。い形容詞はほとんど動詞のように振る舞い、自分だけで活用します。寒い は だ・です の助けなしに、それ一語で文を終えられます。な形容詞は名詞のように振る舞い、文の中に立つには だ か です が、名詞の前に置くには な が必要です。

い形容詞のこの「動詞らしさ」は、一度立ち止まって見ておく値打ちがあります。この先に出てくることのすべてが、ここから説明できるからです。寒い(さむい)はそれだけで完結した文です。過去形は い を かった に替えた 寒かった で、動詞が語幹に語尾を差し替えるのとまったく同じ作りです。「〜だった」に当たる語はどこにも隠れていません。形容詞が自分でその仕事を済ませています。な形容詞にはこれができません。静か(しずか)だけでは文にならないので 静かだ・静かです が要り、過去は形容詞ではなく述語の側に付きます — 静かだった/静かでした。い形容詞は小さな動詞、な形容詞は様子を述べる衣をまとった名詞、と見た瞬間に、二つの表を無関係な暗記リストとして抱え込む必要がなくなります。

2. 見分け方 — そして紛らわしい語

基本の判定法は簡単です。辞書形が い で終わればい形容詞。高い、安い(やすい)、新しい(あたらしい)、面白い(おもしろい)、難しい(むずかしい) — すべてい形容詞です。それ以外はな形容詞で、静か、便利、元気(げんき)、親切(しんせつ)、上手(じょうず)がそうです。語彙の大多数では、この判定法はそのまま通用します。

やっかいなのは、読みが い ので終わる少数のな形容詞です。最も重要なのは きれい(綺麗)嫌い(きらい) の二語。どちらも い で終わり、どちらもな形容詞で、しかもどちらも使用頻度が非常に高い。学習者が必ず一度は引っかかる理由がここにあります。きれい は丸暗記するより仕組みを理解しておくほうが得です。ここでの い は送り仮名の語尾ではなく、漢字の読み れい の一部です。だから 高い の い のようには振る舞いません。より厄介なのは 嫌い のほうで、こちらは実際に送り仮名の い で書かれているのにな形容詞です — 理由の付けようがない、本物の例外です。

逆向きに引っかかる一群もあります。漢字は い で終わらないのに、読みが い で終わる語です。代表格は 有名(ゆうめい)。漢字で書くといかにもな形容詞らしく見えて安心してしまいますが、口に出したり仮名で書いたりすれば ゆうめい で い 止まりになり、学習者は ×有名い と書いたり ×有名かった と活用したりします。同じ形は 丁寧(ていねい)、得意(とくい)、失礼(しつれい)にも現れます。確実なのは、部類を語の一部として一緒に覚える習慣です。ドイツ語の名詞の性を覚えるのと同じ要領で、「きれい、な形容詞」をひとかたまりで記憶に入れ、あとから表記をたよりに部類を割り出そうとしないこと。こうした語をカードに部類を書き添えて復習デッキに入れておけば、二週間ほどで片が付きます。

最後にもうひとつ。い形容詞のうち二語は、名詞の前に限って使える、な形容詞の形をした双子を任意で持ちます。大きい(おおきい)と 小さい(ちいさい)は 大きな・小さな としても現れます。大きな家 と 大きい家 はどちらも同じ意味で、な のほうがやや文章語的・情緒的な響きになります。誤りではありませんし、自分から作って使う必要もありませんが、読む側では必ず出会います。

3. い形容詞の活用 — 高い で確認する

たった一語の例外を除き、すべてのい形容詞がこの型をそのままなぞります。末尾の い を落として語尾を付けるだけです。丁寧体の列の です は、すでに活用を終えた形容詞の上に載せるものであって、でした に変わることは決してない点に注意してください。

普通体丁寧体はたらき
現在高い高いですいま高いと述べる
過去高かった高かったです過去に高かったと述べる
否定高くない高くないです / 高くありません高くないと述べる
過去否定高くなかった高くなかったです / 高くありませんでした過去に高くなかったと述べる
て形(接続)高くて「高くて、〜」と後ろへつなぐ
副詞形高く「高く」と動詞を修飾する

決定的なのは過去の行です。高かったです であって ×高いでした ではありません。初学者だと何より早く見抜かれる誤りがこれで、英語話者は習慣的に was を探して述語の側に貼り付けてしまいます。日常的な形容詞をいくつか使い、違和感がなくなるまで正しい形を声に出してみてください。寒かったです、楽しかったです(たのしかったです)、おいしかったです。最後のひとつは食事を終えたときの一言で、これから覚える文のなかでも指折りに役立ちます。高くないです と 高くありません が同じ意味だということも押さえておきましょう。ありません のほうがやや改まった言い方で、丁寧な会話ではどちらも正しい形です。

4. な形容詞の活用 — 静か で確認する

な形容詞はそもそも活用しません。語そのものは決して変わらず、後ろに来る述語(だ・です)がすべての仕事を引き受けます — 名詞の振る舞いとまったく同じです。学生だ を活用できるなら、日本語のな形容詞はもう全部活用できることになります。

普通体丁寧体はたらき
現在静かだ静かですいま静かだと述べる
過去静かだった静かでした過去に静かだったと述べる
否定静かじゃない / 静かではない静かじゃないです / 静かではありません静かではないと述べる
過去否定静かじゃなかった / 静かではなかった静かじゃなかったです / 静かではありませんでした過去に静かではなかったと述べる
名詞の前静かな部屋名詞を「静かな」で修飾する
て形(接続)静かで「静かで、〜」と後ろへつなぐ
副詞形静かに「静かに」と動詞を修飾する

じゃ と では は、改まり方が違うだけの同じ語です。では が完全な文章語形で、じゃ はその話し言葉の縮約形にあたります。会話では じゃないです、文章や改まった場では ではありません を使えば、いつでも収まりがつきます。二つの部類の差が最も目に見えて表れるのは過去の丁寧形です — 静かでした は正しく、高いでした は正しくありません。この二つを並べて練習するのが、混同をなくす一番の近道です。

5. いい/よい — 押さえるべきただひとつの不規則

いい は二重人格を持つい形容詞です。現在形だけが いい を使い、それ以外のすべての形は古い同義語 よい(良い)から作られます。ですから過去は よかった、否定は よくない、過去否定は よくなかった、て形は よくて、副詞形は よく です。×いかった・×いくない という形は存在せず、形容詞まわりで学習者が犯す不規則の誤りとしては群を抜いて多いものです。

実用上の帰結が二つあります。第一に、この不規則は いい を含む複合語すべてにそのまま受け継がれます。かっこいい は かっこよかった・かっこよくない になり、気持ちいい(きもちいい)は 気持ちよかった になります。型を一度覚えれば、複合語は丸ごとおまけで付いてきます。第二に、よかった は単独でも話し言葉で最もよく使われる表現のひとつで、「安心した」に近い気持ちを表します — 無事でよかったです(ぶじで よかったです)がその典型です。そして副詞の よく には「しばしば」という第二の意味があります。よく行きます は「上手に行く」ではなく「たびたび行く」です。文脈が難なく二つを切り分けてくれます。

6. 文の中の形容詞:名詞の前、接続、そして副詞化

名詞の前。い形容詞はそのまま付きます。高い車(たかいくるま)、新しい本(あたらしいほん)のように。な形容詞には な が要ります。静かな部屋、便利な道具(べんりな どうぐ)、きれいな花(きれいな はな)。な を落とす誤り(×静か部屋)と、要らない場所に足す誤り(×高いな車)は互いに鏡像の関係にあり、一番早い処方は、な形容詞を な を付けたまま「きれいな」の形で記憶に入れて、な が自動的に付いてくるようにすることです。

形容詞を二つつなぐ。て形を使います。い形容詞は くて、な形容詞は で です。この店は安くておいしいです(このみせは やすくて おいしいです) — 二つの評価を同じ向きに並べた言い方です。あのホテルは静かで広いです(あのホテルは しずかで ひろいです)も同じ作りで、こちらはな形容詞の で から始まっています。部類が混ざっても、それぞれが自分の接続形を使うだけで済みます — 静かで安いホテル。制限がひとつあり、この構文は同じ向きを指す内容どうししかつなげません。対比するなら けど か が が必要です。安いけど、おいしくないです。×安くておいしくないです と言うと、対比ではなく前後の噛み合わない言い方に聞こえます。同じ接続の理屈は動詞にも当てはまり、それは動詞活用ガイドで扱っています。

形容詞を副詞に変える。い形容詞は い を に替え、な形容詞は を付けます。早い → 早く:早く起きました(はやく おきました)。大きい → 大きく:大きく書いてください。静か → 静かに:静かに話してください(しずかに はなしてください)。上手 → 上手に:日本語を上手に話します(にほんごを じょうずに はなします)。例外だらけの英語の「-ly」に比べればはるかに整った仕組みで、活用しない手はありません。知っている形容詞は、そのまま知っている副詞でもあるのですから。

7. 比較:より・一番・ほど

日本語の形容詞には比較級も最上級もありません — 「-er」も「-est」もないということです。比較は助詞と副詞が担い、形容詞自体は基本の形のまま置かれます。道具は三つで、実際に必要になる場面はほぼ覆えます。

8. 形容詞を何倍にも増やす三つの型:なる・すぎる・そう

なる — 変化。副詞形を作って なる を付けます。い形容詞は く、な形容詞は に です。寒くなりました(さむく なりました)。日本語が上手になりました(にほんごが じょうずに なりました)。有名になる も同じ形です。名詞も同じ に を使います — 医者になる(いしゃに なる)。対になる他動詞の側は する で、「何かをその状態にする」という意味になります。音を小さくしてください(おとを ちいさく してください)は、字面のうえでは「音を小さい状態にする」依頼で、実際には音量を下げてほしいという言い方です。部屋をきれいにしました も同じ作りです。

すぎる — 度を越す。い形容詞は い を落とし、な形容詞はそのままの形で すぎる を付けます。高すぎる、難しすぎます、静かすぎる、便利すぎる。同じ型は動詞にも、ます形の語幹を使って当てはまります。食べすぎました(たべすぎました)は一年中どこかで出番のある文でしょう。いい はここでも例外なく不規則で、×いすぎる ではなく よすぎる です。

そう — 見た目からの推量。い を落とすか、な形容詞の語幹をそのまま使って そう を付けると、外から見て推し量る言い方になります。おいしそう、高そう、難しそう、元気そう。不規則は二つ、いい → よさそう と ない → なさそう です。重要な制限がひとつあります。そう は推論を表すので、見ればそのまま分かる性質には使いません。赤いものは 赤い であって ×赤そう ではないのは、推論の余地がないからです。そして伝聞の そうです と取り違えないこと。伝聞のほうは基本形に付きます。高いそうです は「高いと聞いている」、高そうです は「見たところ高い」。一音の差でまったく別の二つの意味ですから、意識して自分に問い直しておく値打ちがあります。

9. 高頻度の形容詞40語 — 対になる語と組で覚える

形容詞は、ばらばらに覚えるより組で覚えるほうが実際に効率のよい、数少ない品詞のひとつです。反対の意味の語がほとんどの場合その語と同じくらいよく使われ、二つが記憶の中で互いを支えるからです。下の表は初級の中核となるセットで、部類を書き添えてあるので迷う必要はありません。ほぼすべてがN5 のリストN4 のリストに出てきます。

形容詞対になる語部類メモ
高い(たかい:値段・高さ)安い(やすい:値段) / 低い(ひくい:高さ)い/い高い は、どちらの意味で使うかによって対になる語が二つある
大きい(おおきい)小さい(ちいさい)い/いどちらも名詞の前で な の形を任意に取れる
新しい(あたらしい)古い(ふるい)い/い古い は物に使い、人の年齢には使わない
いい / 良い(よい)悪い(わるい)い/いいい がその不規則 — よかった、よくない
暑い(あつい:気温)寒い(さむい:気温)い/い気温と、体で感じる暑さ・寒さに使う
熱い(あつい:触れたとき)冷たい(つめたい:触れたとき)い/い暑い と読みは同じだが、漢字も使い方も異なる
難しい(むずかしい)易しい(やさしい) / 簡単(かんたん)い/い・な易しい(簡単だ)と 優しい(思いやりがある)は読みが やさしい で重なる
多い(おおい)少ない(すくない)い/い多い は名詞の直前に置かない — 人が多い、または 多くの人 と言う
長い(ながい)短い(みじかい)い/い長さにも時間の長短にも使う
速い / 早い(はやい)遅い(おそい)い/い速い=速度、早い=時刻。遅い は両方の対になる語を兼ねる
近い(ちかい)遠い(とおい)い/い基準点からの距離で、から や に で示す
広い(ひろい)狭い(せまい)い/い部屋や住まいの話で絶えず出てくる
重い(おもい)軽い(かるい)い/い比喩的にも使う — 重い病気
強い(つよい)弱い(よわい)い/い雨・風・コーヒーの濃さにも使う
明るい(あかるい)暗い(くらい)い/い性格を描くときにも使う
面白い(おもしろい)つまらないい/いつまらない は否定形の顔をしているが活用は普通
忙しい(いそがしい)暇(ひま)い/な部類が混ざった組 — 練習にちょうどよい
好き(すき)嫌い(きらい)な/などちらも を ではなく が を取る — 日本語が好きです
上手(じょうず)下手(へた)な/なこれも が。ピアノが上手です。自分について 上手 は避ける
便利(べんり)不便(ふべん)な/な不 はよく使われる否定の接頭辞
静か(しずか)にぎやかな/なにぎやか は肯定的な語 — うるさいのではなく活気がある
安全(あんぜん)危険(きけん) / 危ない(あぶない)な/な・い危ない は日常の話し言葉、危険 は柵に掛かった標識の言葉
甘い(あまい)辛い(からい)い/い辛い は からい だが、同じ漢字で つらい とも読む
元気(げんき)お元気ですか は教科書の定番のあいさつ。元気な子 は活発な子のこと

10. 学習者が何年も繰り返す誤り

上のほとんどを二週間ほどで押さえてくれる練習があります。形容詞を十語選び — 部類ごとに五語ずつ — それぞれの基本四形を声に出して言い、続けて実際の名詞を付けてもう一度四形を言う。高い車です/高い車でした/高くない車です… ひとつのセットの中で二つの部類を混ぜることが、反射を作る要です。難しさの本体が、時間に追われながら二つの型を切り替えるところにあるからです。一日十分で足ります。語彙の側は学習画面基礎1のリスト基礎単語モジュールを回し、部類がすぐ出てこない語は表記から推測せず、そのまま復習デッキへ入れてください。

部類が二つ、表が二つ、不規則な語がひとつ — 形容詞の仕組みはこれで全部です。最後まで揺らがない学習者は、末尾の仮名から部類を割り出すのではなく、初日から部類を語の一部として書き留めておいた人です。N5 の語彙でその習慣を作り、紛らわしい語(きれい・嫌い・有名)は復習デッキに常時残しておきましょう。そうすれば形容詞は誤りの源ではなくなり、日本語をいちばん早く描写的で自然なものにしてくれる道具になります。